書評『アート・オブ・スペンディングマネー』― お金の貯め方に最適解はあるが、使い方に正解はない
2025年の年末、最後に読んだ書籍があまりにも良書かつ幸せに生きるための羅針盤になり得る本だったため、この気持ちが下がらないうちに紹介したいと思い書きました。
その書籍は、モーガン・ハウセル著の『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』です。
書籍の概要
はじめに、本書の概要をお伝えします。
著者は、米国のベンチャーキャピタリストでありウォールストリートジャーナル元編集者でもあるモーガンハウセル氏で、代表作は、富を築くためのマインドや手法を世界累計800万部のベストセラー本「サイコロジー・オブ・マネー」になります。
本書の目次
本書の目次は以下のとおりです。21章に分かれています。目次を見ただけでも内容を読みたくなるような言葉が満載です。
- 十分な情報があれば、あらゆる行動は意味をなす
- アテンション・プリーズ
- 収入<期待=不幸
- 見えざる真実
- 最も価値ある資産
- あなたを幸せにするもの
- 金持ちと真に豊かな人の違い
- 「実用性」対「ステータス」
- リスクと後悔
- 他人と自分を比べないための知恵
- 自分で選べない人生は、一種の貧困である
- 社会的負債
- 静かな福利
- アイデンティティ
- 新しいお金の使い方を試す
- お金と子ども
- 表計算シートは感情を気にしない
- 小さな支出との付き合い方
- 強欲と恐怖のライフサイクル
- 惨めになるお金の使い方
- 運に恵まれたら、優しくあれ
書籍の内容一部紹介
私は、ここ数年、資産運用や株式の取引をするうえで、数々のお金にまつわる本を読んできました。漫画ワンピースでたとえるならば、それらの書籍がポーネグリフだとしたら、この『アート・オブ・スペンディングマネー 』は、最終到達点である”ラフテル”なのではないか。
それぐらい、心に突き刺さる金言がたくさんちりばめられた良書でした。大前提として、『サイコロジー・オブ・マネー』を読んだ後に読んでいただきたい書籍です。
前作品は、「お金の貯め方」にフォーカスを当てた書籍で、本作品は「お金の使い方」にフォーカスを当てた本なので、順番的には全作品を読んでからの方がずっと解像度が上がると思っています。
ここからは私が特に刺さった部分を紹介していきますが、人それぞれ刺さる部分は違うと思いますので、あくまでも私見として受け取っていただき実際に書籍を手に取って個々の思考に落とし込んでみてください。
きっと多くの気づきがあることでしょう。
あなたの常識は誰かの非常識
書籍の冒頭、私にとって非常に耳の痛い文章が書かれていました。
自分があるお金の使い方を好むからといって、他人もそうすべきだと考えるのは、人としての未熟さの表れだ。
資産形成において、株式などのリスク資産に長期的に投資することで資産が複利で増えていくと知った初期の頃のことです。
今までは、貯蓄や貯蓄型生命保険で資産形成していた期間が長く、投資という方法を知ったことが嬉しくなり、一緒に豊かな老後を過ごしたいとの想いから親しい友人に、投資を強く勧めたことがありました。
言い方が悪かったのかもしれませんが、投資をしないことは間違っている的なニュアンスで伝えてしまった。もしくは、そのような雰囲気が出ていたのでしょう。
さらに追い打ちをかける様に、釣り好きの友人が高額なルアーなどの釣り道具の購入についても、控えて少しでも投資に回したらどうだと、調子に乗って助言してしまったのです。
黙って聞いていた友人の表情は次第に険しくなり、「俺がどのようなお金の使い方をしようと勝手だろ!俺は今釣り道具にお金を使いたいんだ。」と、言われたことがあります。
当時の私は、完全に未熟者で愚か者した。
それからというもの、他人のお金の使い方や行動について、その様な考え方もあるのだなと、思うようになりました。
人は誰でも自分が正しいと思い込み、行動しています。
「あなたの常識は誰かの非常識」
人の数だけ考え方はあり、正解は各個人の心の中にあるのです。
私にとってこの書籍は、過去の過ちを再認識してくれる本でもありました。
お金の貯め方はサイエンス、お金の使い方はアート
資本主義時代の現代で、お金を効率的にためるための手段は、ある種最適解があり、再現性がある手法が確立されてきています。それは言うなればサイエンスであり、公式があります。
しかし、お金の使い方については、正解はなく、人の数だけ公式があるのです。
著者は、お金の使い方はアートであると表現しています。
自己表現の場であるとも言えます。
そこで重要になってくるのが、内側に向いてお金を使うのか、外側に向かってお金を使うかによって幸福度は変わると著者は言います。
内側とは、自分の信念や考え方に基づいてお金を使うことで、外側とは、他者と比較して見栄や商人欲求のために使うお金のことです。
本書内には、外側に向かって散財して破産した数々の大富豪や有名人について紹介されています。反面教師として参考にしてみるとよいのですが、私が思うに、もし自分がその立場になったらもしかしたら同じような行動を起こすかもしれないと考えておくのがよいのでしょう。
自分だけは大丈夫だ。と、いう過信は慢心のもとになり失敗する可能性が高くなるからです。
書籍で紹介された有名人の中で、シンガーソングライターのテーラー・スウィフトのエピソードが特に気になりました。
「そこに到達したらどんな気分になるかだけでなく、そこにたどり着くまでにどんな問題にぶつかることになるかを事細かく考えていた」とキャリア初期に話していたそうです。
私は、ある時に見た記事を思い出しました。
その記事は、記録的な成功を収めた「The Eras Tour」の全スタッフに対し、感謝の意を込めて総額1億9700万ドル(約300億円)を超える巨額のボーナスを支給した。と、いう内容でした。
あぁ、テーラーは、富を独占したときに周囲の人々の嫉妬や畏怖から起こる問題について常に意識していたからこのような素敵な行動ができたのだと腑に落ちました。
21章での、運に恵まれたら優しくなれを体現しているスウィフトは、お金の使い方も素晴らしく輝いているアートであり、一流のアーティストなのだと改めて思いました。
ストア派哲学的要素が強い
本書の節々に、ストア派哲学の言葉が引用されています。
ストア派哲学とは、古代ギリシャ・ローマで生まれた哲学で、理性(ロゴス)によって感情(パトス)を制御し、逆境に動じない不動心(アパティア)を目指し、「コントロールできること」と「できないこと」を見極め、「できること」に集中することで、幸福で意味のある人生を送ろうとする教えのことです。
ストア派に代表される哲学者としては、セネカやエピクテトス、マルクス・アウレリウスなどが有名です。

中でもエピクテトスは足の不自由な奴隷から哲学者になっており、思想家一本でのし上がった人物です。すごいですね。
私は、ストア派哲学の考えが好きだったのでこの書籍の内容が非常にしっくり来たのは筆者のモーガン・ハウセルがストア派哲学の思想を高く評価しており、現代の金融・人生モデルに当てはめて書籍を書いているからなのでしょう。
また、「ブラックスワン」の著書でも有名なナシーム・ニコラス・タレブの引用句も出てくるので、現代版ストア派哲学書と言っても良いかもしれません。
中でも、ストア派哲学では友人知人の死や、自分の死について見つめなくてはならない。と、説いております。
人は誰もが自分は永遠に生きるべく運命づけられているかのように生きて時間を浪費している。
確かに思い当たる節はたくさんあり、今できることを先延ばしにしたり、だらだらとSNSやショート動画を流し見したり、退職後にやりたいことは今できないのかとは考えなかったりと、明日死ぬかもしれないのに私たちは二度と戻らない時間を垂れ流しています。
どのタイミングでお金を使うかは各自の自由なのですが、使いどころを間違えると後悔することになるかもしれません。
この本には後悔しないためのヒントがたくさんあるので、そういった視点で読んでみるのもよいかもしれません。
どこまで自分をメタ認知できるかがカギ
ストア派哲学を実体験で活用している方や思想を理解しようとしている人達にある種共通している点が感じられるのは、自身をメタ認知(客観視)している感じが見受けられます。
巷では、達観しているという場合の方がしっくりくるかもしれません。
私も、そうありたいと思って日々考えて行動しているつもりですが、情報過多な社会で複雑な人間関係を構築し、会社やお金に縛られているサラリーマンにはなかなかきついものがあります。
また、あまりにもメタ認知が過ぎると、なんでも間でも仕方がない、なる様にしかならないという思考に偏りすぎて、熱量が足りなくなる場合もあります。
時には感情的や直感的に行動することも重要な要素だと本書では触れています。
人はどこまでいっても非合理な生き物なので抗えない部分はあります。
お金の使い方は千差万別お金の奴隷になるな
最後に、著者は、素晴らしい人生を送るための最もシンプルな公式は「自立+目的」と解いています。自分で考え「お金の使い方」をデザインすることで、自立心が芽生え、自然に目的や目標が見えてくるのかもしれません。
見栄や承認欲求や他者との比較のためだけにお金をつかっているのであればそれはお金に使われています。また、お金に執着する人はお金の奴隷になっているとも書かれていました。
そこから抜け出すことは、世界中のお金持ちや幸せを発信している人たちと簡単につながることができる情報社会では非常に至難の業です。
「お金は」道具、使い方次第で幸福をもたらすこともできるが、凶器にもなり得る。
私自身も、ブログで資産を公開している段階で誰かに褒めてもらいたくて、自慢したくて、欲求を満たしたくてお金に執着しているのかもしれません。
しかし、そこから目を背けずに向き合うことで、本当の「自立+目的」を達成することができて素晴らしい人生を送ることができるのです。
まとめ
本書を読み終えて強く感じたのは、「お金をどう増やすか」よりも、「自分は何に幸せを感じるのか」を問われているような感覚でした。
投資や節約は人生を良くするための“手段”であり、目的ではありません。にもかかわらず、いつの間にか数字そのものに振り回され、比較や承認欲求のためにお金を使ってしまう。
そんな自分を客観視でき、思考が整理されていく。
「いまの自分のお金の使い方は、自分を幸せにしているだろうか?」
そんな問いを一度でも持ったことがある人にとって、本書は人生の羅針盤になり得る一冊だと思います。
